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危険!!フリーランスの地雷原・1

■CAUTION!!!

ここはフリーランスと、フリーランスにシゴトをたのむ連中…連中の中でも、イカレた奴らがゴロゴロしてやがる危険な地雷原…。
ここで生き抜くのは生半可じゃねぇぜ…。

いいか、これは、これを読んで心が痛んだり、「自分も気をつけなければ…」なんて戒めるタイプの連中には関係のない、マジで、ヤバイ、“戦記”さ…。
自戒しようとしたあんたは、きっとイイヤツに違いねぇ。こんな歴史は知る必要もねぇし、自分のことが書かれてるんじゃないか、なんて心配することもねぇ、これまで通り胸を張って、相手を人間扱いして働いてくれ。

■更新履歴

prologue (2015/1/17)
Episode 1「あんたフリーランスになりてぇのか?」(2015/1/17)
Episode 2「打ち合わせなんざ無駄打ちさ…」(2015/2/11) 
Episode 3「正直な“想い”、言葉にして打ち明けてくれ」(2015/3/12)

■ かんたんなご案内

*この記事の更新は満了しました。(続きはあります。)
*更新ルールやお値段の仕組みなどは「総合案内」をご参照ください。

 ■収録ナビ

書籍化は検討しましたが他作の編集作業が詰まっているので、目処は立っていません。購読はnoteのみとなります。
収録マガジン:こちら




「危険!!フリーランスの地雷原」


prologue


ここは、危険な荒野。

マトモな神経のヤツぁ近づこうとしねえ。

誰だってそうさ、無闇に苦しみたかァねえし、

無意味に死にたかァねえんだ。

そして、マトモな金が欲しい。

あんただってそうだろ?

だったら来ないほうがいいぜ…。


なんだって?

これからフリーランスになりてえ?



正気か、若いの。

お前ここがどこだか分かってないのか?


生きて帰れるか分からねえ、

危ない荒野だ。


強いフリーランスだけが生き残れる

弱肉強食の世界。


いいか、若いの。

気をつけろ、気を抜くと

安く買い叩かれて、無理な〆切を押し付けられて

入金日前に死んぢまう。



そうさ、マトモな神経のヤツぁ近づこうとしねえ。

だがな、これも忘れるなよ。


マトモな神経がねえと、


仕事になんねえぞ!!!!!






Episode 1


ここはフリーランスたちが生き抜く荒野。

道の脇にはポコポコと地雷が埋まっていやがる。


地雷を埋めたのは誰かって?知らねえよ。

俺が生まれた時には元々埋まってたんだ。

きっとご先祖様たちが埋めたんだろうな。


どっかの誰かさんが踏んだらドッカンドッカン

わかるように。


地雷が爆発したらヤベエことになった合図さ。

「気をつけろ!コレ、変な依頼だぞ!」ってな。


なんつーと、ハハ…、乱暴者に見えちまうかな。

でもよ、俺たちは闇雲に誰かさんを吹っ飛ばすほど

イタズラ好きじゃねえんだ。


よーく見てくれ。

道の脇にしか埋まってねえだろ。

そうさ、ちゃんとした道を外さなきゃ、

誰も踏みやしないようになってんのさ。


ところがだ。


たまに冒険家がやってくる。

なんだか知らねえが、ドッカンドッカン

地雷だけを踏み抜いて行くのさ。

天才的に地雷だけを踏んで突き進むんだぜ。



俺も見たことあるかって?

ああ、俺もたくさんの冒険家を見てきたさ。




見て…きたさ…。




この荒野じゃあ

武闘派として知られる俺さ。腕っぷしには自信があった。


腕っていうのは、なに、荒野の用心棒みたいなもんさ。

本業は物書きだがね、そっちはパッとしねえ。

パッとしねえどころか、

最近、職を失ったところだぜ。

ハハ、残念なこった。


とにかく俺は、"しきたり"を知らねえ冒険家様が

この荒野にやってきた時、仲間に無礼を働いた時、

片っ端から撃ち抜いてきた。一撃だ。

腕には自信があったんだ。



"あいつら"に会うまでは。——————




"そいつ"は、荒野の入り口にある地雷っていう地雷を

片っ端から踏み抜きながら、

俺に近付いてきた。


なかなか派手なオデマシだったぜ。


赤熱の爆風の向こうから現れたそいつは

平然としていた。恐ろしいほどにだ。


—————————————

日付:2014年1月17日 20:58

宛先:中村珍

差出人:shinai.kizukai@jirai.shuppan.jp

件名:イラストのご依頼(地雷出版木塚井)

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中村珍様

お忙しいところ大変申し訳ありません。はじめまして。地雷出版から発行されている情報誌「◯◯◯◯」の編集者で木塚井と申します。

先ほどお電話をしたのですが出られなかったのでメールにて失礼します。

このたびイラストの仕事をお願いしたくご連絡しました。つきましては明日の11時に会議がありますので、10時半頃までにお返事を頂きたく思います。

イラストの内容ですが「×××」の特集ページに使わせて頂きます。

会議で編集長に見せるためにサンプルが必要なので「×××」に関するもの(無い場合は近いもの)を数点お送りください。カラーが望ましいです。

それでは、宜しくお願いします。

木塚井 竹刀


—————————————


日付:2014年1月18日 8:58

宛先:中村珍

差出人:shinai.kizukai@jirai.shuppan.jp

件名:(再)イラストのご依頼

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中村様

昨晩ご連絡した木塚井です。依頼のメールは届いているでしょうか?見ていたらご一報ください。

木塚井


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痺れたね。




わかるかい?俺の気持ちが。

わかったあんたはもうフリーランスだ。


「ブチ抜いてやらあ!」

そう、思ったさ。


俺は、確実に仕留めるために

地雷の爆風で霞む先に居る"そいつ"に向かって

1発1発、正確に撃ち込んだ。


—————————————


日付:2014年1月18日 10:18

宛先:木塚井竹刀

差出人:中村珍

件名:中村珍です Re:イラストのご依頼(地雷出版 木塚井様)

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株式会社 地雷出版

◯◯◯◯編集部 木塚井竹刀様

昨晩イラストの件でご連絡を頂戴しました、中村珍です。お問い合わせ頂きありがとうございます。

「会議が11時から」とのことでしたので、ご教示頂いた10時半頃までにご返事差し上げれば問題ないと思い込んでしまい、今になってしまいました。早朝から確認のお手間まで頂いてしまい申し訳ありません。

ただ、昨晩メールを頂いたのが退勤後でしたので、いずれにいたしましてもご連絡頂いたタイミングでの即答は難しく…、ご不便お掛け致しますが、その点はご理解賜りたく存じます。

ご依頼頂いたイラストの件ですが、要サンプルとのこと。「×××」に関するイラストは制作したことがないためご用意できません。もう少し込み入った内容をご指示頂ければラフを起こすことは可能ですが、いかがいたしましょう?必要でしたら仰ってください。

その場合は併せて、〆切や仕様など、諸条件ご教示頂ければと思います。

(追伸、本題とは関係ないことなのですが…。これまで地雷出版の方とはお仕事やお酒のお席などでご一緒したことがございません。メールの前にお電話をくださったとのことですが、電話番号はどなたを経由してご存知なのでしょうか?差し支えなければ教えて頂けるとありがたいです!よろしくお願いいたします!)

中村珍


—————————————



いいか、

夜の20:58に「はじめまして」の仲で

明日の11時に会議だ?

10時半頃までに連絡すりゃあいいんだろうが、

なんで8:58に催促のメールがあるんだ。

わからねえ。

俺にはそういうのわからねえ。

10時半"頃"はどっから始まってんだ。

どんなデッケェ"頃"だ。

スケールのハンパねぇ野郎だな。


「サンプルを数点お送りください」?

「サンプルはありますか?」だろうが。

俺が応募方法を問い合わせたみたいじゃねえか。

どっちのご依頼だよ。


それから電話番号、誰かに聞くほうも

漏らすほうも、どうなってんだよ!


それから、

〆切!サイズ!仕様!枚数!ギャラ!

全部最初に書いて来い!

情報のない求人広告を出す会社に

勤めたい人間以外は必ずだ!!!!





色んなことを考えながら

俺はトリガーを引いた。



———————殺(や)ったか?


きっと俺の撃った弾は、"そいつ"の

ドタマを


ブチ





!?






——————忌まわしい話は、今は、よそう。


俺はあんたに、

先に教えなきゃいけないことがある。



この荒野の、地理と、歩き方だ。



ふん、あんたの顔を見りゃわかるぜ、

あんた、

イッパシのフリーランスになって、

あの霊峰・"入金" 山(にゅうきんざん)に

辿りつきてぇンだろ。


いいぜ、俺はどうせもう

失う物のない無職の身さ。


案内してやるよ……。

俺が用心棒として、あんたを護ってやる。








Episode 2




よう、元気にやってるか。

調子はどうだ。

フリーランスとして新しい仕事はもらえたか?


俺か?

俺はな、まあ、そうだな。

無職になったことを大っぴらにしたせいだろうな、

「この値段なら使ってやる」とでも言わんばかりに、

安い仕事の依頼が増えたぜ。

「現役で描いていらっしゃる方でしたら

もう少しお出しできるのですが」だとよ。


へへっ。どうだ?羨ましいか?

お得意様だったトコロも、

ハハ…なんてこったい。俺は、ザマァねぇな。

半額に下げて打診してきたんだ。

もう、お得意様じゃねえ、お生憎様だ。

あばよ。


俺はこのまま、この荒野の一匹狼になるつもりさ。


おい、この前渡し忘れちまった。

あんたにこれをやろう。このあたりの地図だ。


イッパシのフリーランスになりゃあ、 

どこを通ったってゴールに辿り着けるが、

慣れるまでは地図に従ったほうがいい。 


どんな冒険が待ち受けているのか、

段取りどおりに体に叩き込め!


まずはここを見てくれ。

そう、寄り道だ。


何?

地図にメモをしていいかって?


ほらよ。

寄り道の先に進むと何がある? 

対面の祠(ほこら)だな。 



この祠が荒野の入り口にあるせいで

わかってないやつはなんとなく立ち寄っちまう。 

「なんかありそうだ!」———ってな。 


ハハ。

残念だったな、坊や、お嬢ちゃん、

そこには、何かある時以外は、何もねえんだ。 


そして、

大抵いつも、

何もねえんだよ。 



おっと、メールだ。 

すまねえ、ちょっと待ってくれ。 


気が進まなかったが、

あんたの参考になるかと思ってな、

とっておいた仕事があるんだ。


̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 

日付:2015年1月20日 18:00 
宛先:中村珍 
差出人: sugu-aitagari@ssc.co.jp 
件名:打ち合わせの日程の件 
----------------------- 
中村様 

お世話になっております、 
SSCの相田刈です。 

先日お願いしたイラストの件です。 
26~30日の週、打ち合わせで 
お会いしたいのですがどの日程が良いでしょうか。 

SSC出版部 相田刈 すぐる Suguru Aitagari 
sugu-aitagari@ssc.so.jp 
http://SuperSettaiCommunication.co.jp 
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 


ちょうどいい、

連れてってやるぜ。 

対面の祠で起きるファンタスティックイベント…!


打ち合わせ


—————————ってやつに、よぉ。 


ちなみにこの仕事の原稿料は 
手取りで1万円だ。 

普段、このタイプの仕事の打ち合わせには絶対に行かねぇが、 
今日はあんたに見せてやるため、特別に行くことにするぜ。 



いいか、その澄んだ目で、しっかり見ておくんだぜ。

決して目を背けるんじゃねえ。



これが、

打ち合わせだ!!





追ってご相談———————!!!!!!



み…見たか。


顔…突き合わせて、…ハハン。

わざ…わざ…、 サイズ…聞くために

…ここに来たんだぜ、俺は…。


どうしておれが、対面の祠に続く道を…、

“寄り道”って呼んだか、

これでわかったろ…。


よくあることさ…。ほんのかすり傷だ。




いいか、これが、打ち合わせの真髄と言ってもいい。

「追ってご相談」が、

打ち合わせのほぼすべてだ。

打ち合わせじゃ何を作るか決まらねえ。

こっちが作ってみせてやっと、

「こういうのが欲しかった」とか

「やっぱり違った」とか

本物の打ち合わせをおっぱじめやがるんだ。

なぜか「修正」って呼ばれるがな。


覚えとけ、

打ち合わせっていうのは、

打ち合うんじゃねえ。

無駄打ちで仕事気分を味わう茶番だぜ。


一度、対面までしておきながら、ほぼ、

「追ったご相談」が起きるんだ。


いいか、

「追ったご相談」のほうが「打ち合わせ」だ。


「打ち合わせ」に用事がないことを体が覚え、

何も間違えていなくても、

なんとなくお気に召して頂けねぇことを、

いいか、ハハン…

「修正」って呼ばれることに慣れた頃、

お前もイッパシのフリーランスだ。

グッドラック!


ちなみに、混乱しないように教えてやるぜ、

この世界で「修正」と呼ばれるほとんどは

「変更」か「追加」だぜ。


こっちが間違えたような言い方をされることも

そのうち気にならなくなるが、

忘れるな、だいたい「変更」か「追加」だぜ。




こんなバカげた打ち合わせが本当にあるのかって? 

ハッ、あんた、まだまだ業界を知らないな。 

ゴロゴロあるぜ。

 
多くの奴は、ただ、なんとなく、

「会ったほうがいい」——————って 

思ってるんだ。 

直接のほうが伝わるとか、

対面のほうが失礼がないとか、 

ってな。 


けどよ、 

対面の打ち合わせが本当に対面じゃねぇと成り立たねーなんてのはよ、 
その場で試食しなきゃいけねえとか、匂いを確かめなきゃいけねえとか、 
なんか着せてみなきゃいけねえとか、化粧してやらなきゃいけねえとか、 
実物を見てレビューしなきゃいけねえとか、 

まあ、それぐらいだろうな。 

電話が開発されて、ファックスが開発されて、 
ビデオ電話が開発されて、チャットアプリが開発されて、
パソコンの画面だって共有できるし、スキャナだってあるってのによ。 

全部スッとばして「会いましょう」っていう奴は、 
メディアの世界にいながら、新しい物の使い方を知らねぇ証拠だ。 

それだけでも十分注意だぜ。 


対面っつーのはな、

いいか、笑っちまうぜ。

安土桃山時代とかの働き方だぜ。

縄文人も用事があったら対面だったろうな。

土器作ってくれませんかってな。


ハハ…笑わせるぜ。 

「とにかく来い」ってよ、

参覲交代のアイデアだぜ。 

この江戸幕府! 



たとえばだ、駅まで歩いて10分。 
そんでもってよ、地下鉄に揺られて7分だ。それで終わりじゃねぇ。 
乗り換えのために駅構内を10分歩くんだ。それから地下鉄を乗り換えて、 
また19分だ。改札を出て地上の出口までが7分ってもんか。 
そこから指定された打ち合わせの場所まで歩いて7分。 

これで60分だな。 


そこから合流して、挨拶して、名刺を交換して、 
打ち合わせをして、2時間だとしよう。 
それからまた同じ道を60分かけて戻る。 

全部で4時間だ。


あんたの4時間はいくらだ?

あんた、4時間売ってくれって言われたら、

いくらって売ってくれるんだ?


 


時給950円。 
よく覚えとけ、これはファミリーマート神楽坂店の昼間のバイト代。 
近所に週刊誌で有名な出版社があるな。 
交通費については書かれてないから出ねえのかも知れねえな。 
夜はもっともらえるぜ。 

時給1050円。 
いいか、これは吉野家神保町店の昼間のバイト代だ。 
さすがは大手から中堅まで出版社が揃ってる街の牛丼屋だぜ。 
働いた時間分のカネが出て、片道300円も交通費が支給されるって話だ。 
夜は時給25%アップだとよ。とんでもねえバブリーだな。 

時給888円。 
これはセブンイレブン千駄ケ谷店に高校生が勤めたら貰える時給だ。 
同じ四丁目に出版社があるな。 
大人が夜働けば1188円。昼間は950円って話だ。 

時給950円。 
でっけえ出版社の前にジョナサンがあるな。知ってるか? 
護国寺駅を出たとこだ。 
あそこで働きゃ一時間900円になる。 
おまけに交通費は月1万円までくれるってのは太っ腹な話だな。 
さすがジョナサンだぜ。 
この高待遇じゃあ、もう、サンじゃねえ、ジョナサマだな。 
ジョナサマ護国寺店は高校生でも900円だとよ。 


いいか、コンビニも、ファミレスも、 バイトがよ、

世の中で底辺の仕事だみてぇな扱いされてるけどよ、 

報酬が5000円や1万円の仕事の打ち合わせっつーのはよ、 

打ち合わせ、

電話対応、

メール対応、

修正対応、

構想、

ラフ出し、

 資料集め、

制作、

なにもかもを10時間以内に片付けなけりゃ、 

バイトほどいいカネが貰えねぇんだ。 


そんな発注内容でも気軽に打ち合わせに呼ぶ連中は、

要するに、 

有料で働く価値のある人間じゃねぇってことを、 

俺たちに突きつけてるんだぜ。 


忘れるな俺たちは、時間を使うんだ。 

仕事にも、打ち合わせにも、人生にも、すべてに 

時間を使うんだ。 


ご先祖様が言ってたろ。 
「時は金なり」———————ってな…。 

ありゃあ、なにも、時間を大切にしろってことだけじゃあねえぜ。 
時は金だっつーことなんだ。わかるか、いいか、 
人の時間はな、カネなんだ。覚えとけ。 


この世界にはな、確かに、 

寄り道しながらよ、対面の祠まで

ちょくちょくお参りに行かなきゃあ出会えなかったような、 

本当に、本当にすげえ、

守り神みてえな、大地の恵みてえな、 

神様みてえなメディア関係者もいるぜ。

稀だが、神様はいるぜ。 

だけどな、稀だぜ。神様は。 

神様を探すために毎回寄り道するのか、 

寄り道せずに報酬の回収に集中すんのか、 

どっちがいいとは、おれは言い切れねえ。 


出会ってみりゃあ神様は手放したくねえもんだ。 

かと言って、

神様のいねえ祠に旅なんざし続けてみろ。 

時間がかかってしょうがねえ。 

時間がかかるってのは、カネがかかるってことだぜ。 


相手の顔を拝んだほうがいい案件か、 
寄り道しちゃいけねぇ案件か、

じっくり見極めるんだ…。 

あんたの4時間はタダじゃねえ。


いいか、あんた、フリーランスになりたいなら、 
今日、おれが話したことを思い出せよ。 

あんたにもきっと、1万円とか、5千円とか、そういう仕事が 
来ちまうことがある。 
そういう仕事が続くかも知れねえ。 

そうなった時に、思い出すんだ。 

5,000円や1万円みてぇなよ、

小口の発注で、 

打ち合わせに何時間も使えって言うようなヤツに

会いに行っちゃいけねぇよ。 


あんたがそいつを

心中してぇほどいい担当者だと思ってるなら止めねぇが、 

心中してえほどいい担当者は、

安い仕事で、対面の打ち合わせになんか呼ばねえよ。 


「予算上対面は難しい」って言ってみろ。マトモな人は 
「そうですよね」って、引き下がってくれるからよ…。

神様によっちゃあ、ギャラを上げてくれることまである。

 

それで、もしもだ、もしも「良いものにするために会いたい」ってよ、 
引き下がらなかったら、値段相応で済ませてぇんじゃねぇってことだ。 

良いものにしたいし、安く抑えたいっつってんだよ、そいつぁよ…。 
それから多分、指示のメールを打つのもメンドクセェんだ。 

奴隷探してんだよ、そういう奴はよ。 
フリーランスじゃなくて、 
奴隷を。 

金は出さねぇ、良いものを作らせてぇ、時間は割かせてぇ、 
ってことさ。 
気をつけろよ、こういう奴ァ、あんたを人間だと思ってねぇ証拠さ…。 


カネの話をした時に、仕事への情熱の話を返してくるクライアントは切り捨てろ。 

カネの話をした時に生活の話をしてくれる人だけを敬え。 
そういう人とだけ、熱を入れ込んだ仕事の話をするんだ。 

他人の生活を想像するくれぇ頭に余裕のある人は、 
仕事に入れ込む余裕があるからよ。 


なんてったってよ、わかってんだ、 
こっちのカネの問題を気にするクライアントは。 

カネが限られてる中では、

よっぽど本気になって遣り繰りしねぇと、 

いいものが作れるわけねぇ!

——————ってな。



そうじゃねぇ奴に気をつけろよ。 

あいつらは、カネがなくたって

俺たちの時間を無尽蔵に使えば

いいものを作れるって思ってるぜ。 


いいか、くだらねぇ奴のためになんて

時間をタダでくれてやるな。 

気をつけろ。 

時間ってのは命だぞ。いつか終わるからな。

サイズ聞くために削っちゃいけねえ。

お前はもっと作るべきものがあるぜ。



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日付:2015年1月26日 19:00 
宛先:aitagari@ssc.co.jp 
差出人: 中村珍 
件名:相田刈様/本日はありがとうございました 
----------------------- 
相田刈様 

本日はお時間割いていただき有り難うございました、 
中村珍です。 

イラスト内容について後日ご指示いただけるとのこと、 
お待ちしております。よろしくお願いいたします。 

〆切は2月5日とのこと、ちょうど10日ほど残っておりますが、 何日頃になれば上の方からのご指示いただけるでしょうか? 

・構図を考える~ラフを起こす時間+ラフにお戻しいただくまでの時間 
・作業 
・納品後のチェック~念のための修正対応の時間 
それぞれ1日ずつ、 
(ラフや完成データのチェックに大人数の方が関わるようでしたら+1日あると 安心です。) 
最低3~4日は残したいと思っております。 

本日以降の予定ですが、先に申し上げました通り 
・1/29~31 
・2/3~4 
は別件で他社に押さえられておりますので、 本日を抜いた残り日数は、〆切当日を含めて 5日となっております。 

ご多用中恐縮ですが、諸々、ご対応よろしくお願いいたします。 

また、制作内容につきましては、作業時間を残したいことと、外せない条件を正確にお伝えいただくため、メールにて頂戴できればと考えております。併せて、ご理解のほどお願い申し上げます。 

中村珍 
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 




おっと、早速返信だ。 



̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 
日付:2015年1月26日 19:18 
宛先:中村珍 
差出人: sugu-aitagari@ssc.co.jp 
件名: Re:相田刈様/本日はありがとうございました 
----------------------- 
中村様 

お世話になっております、 
SSCの相田刈です。 

でしたら早速ですが、明日お越し頂くことは可能でしょうか? 
明日でしたらイラスト内容を確定する社内の打ち合わせがございます。 
ご同席頂けましたら内容もその場でわかりますし、 
中村様のイメージを直接お話頂いたり、 
これはできる、これはできない、ということを 
ご提案頂くことも可能かと思います。 

難しいようでしたら、打ち合わせ後に内容をまとめることになるため、 
少し時間はかかってしまいますが、明後日にはお送りします。 
ご検討ください。 

相田刈 
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 


 









Episode 3




よう、元気にやってるか。

調子はどうだ。そうか、何よりだ。

元気がねぇ時は無理をするな。

元気な時も無理をするな。

もっと元気がなくなっちまう。

ただ、「ここぞ」って時は頑張れよ。


おい、なあ、

そろそろあんたも自分で仕事をしてみたいだろう。


今日はあんたの仕事を探そうと思うんだが、

どうだい?


おっと、あそこに誰かいるようだな。
ちょうどいい。あんた、声をかけてみな。


なんだって?知らない人に話しかけるのは

気がひける?


おいおい、笑わせるんじゃねぇよ、

フリーランスってのは、人をタラシて

人にタラされて、ナンボの世界だぜ。


お互いに悪くねぇタッグになるかも知れねえじゃねえか。

いい担当者とやる仕事は面白いぜ。

まあ、声をかけてこいよ。



おい、

こっちを向いてみろ。



よーし、いい笑顔じゃねえか。

大丈夫だ、

そうやって人と話すんだ。

怖い顔して働きてぇヤツなんか

本当は居ネェんだよ。


なあ、

この荒野でモノをいうのはなんだと思う?


人脈だ。


暴力じゃねえ。ただの努力でもねぇ。

悪知恵でもねぇ。学力でもねぇ。


ここでは、

いい人脈を掘り当てたヤツが幸せになるんだ。


人脈を掘り当てるのに必要なものは何かって?

才能と努力さ。

才能と努力って何だって?

運と人柄のことさ。


とにかくこの荒野じゃ、会った人にゃあ挨拶しておけってことだ。

長い付き合いになるかどうかは互いに決めていくことさ。



ちょうどよかった、

 イラストレーターさんが飛んでしまって困っていたんです。

 そこのあなた、もしかしてイラストレーターさんですか。




ほぅら、よかったじゃねえか。

フリーランスになりてぇあんたにピッタリの案件だ。

まずはイラストレーターになってみるといい。



よお、編集さん。こいつは駆け出しだが飲み込みのいいヤツなんだ。

きっといい絵を仕上げてくれるぜ。








!!!



ッッッッ、



行くなアアアアーーーアァァァァッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



こ、ここは…





ここは…——————

恐ろしい森—————————。




入ったら最後…

出られるか、わからねぇ…。






————し…しまった、遅かったか…。

あんた、森の中に入っちまったんだな…。




ちくしょう、こうなったら仕方ねぇ…ッ!

待ってろ、助けてやるからな…。


俺は、その森に飛び込んだ。

普段だったら入りゃしねえ。

だけどよ、ヒヨッコが一人で入ったら、

生きて帰れるか分からねぇ。



ここは…、

————————謎オーダーの森…。



いかん!もうオーダーが始まっている!!!



===============================


絵のイメージはワイワイした感じで、少女漫画風なんだけど、男性ウケもするような。ベルばらとかがイメージに近いですね。でも本当にそうすると昔っぽくなっちゃうので、いかにも今風!って感じでお願いします。あ、少年漫画っぽさは入れないでください。あくまでも男性ウケもするような、いかにも今風!って感じのベルばらって感じで、そういう女性たちが登山をしている。
5人グループぐらいで、真ん中の女性は安野モヨコの漫画に出てくるような主人公って感じがいいですね。その女性が友達を連れて、みんなで登山に行こう!みたいな。職場の同僚です。普通の会社ですね。外資系OLみたいな。オシャレ!って感じで。ファッション編集者でも。
一人ぐらい男性が混じってるといいですね、カップル向けの特集っぽくなっても門が狭くなりますし、全員女子でもなんか、モテない女、山へ…みたいになりますし。山のイメージはどこでもいいです、富士山でもチョモランマでも高尾山でも。とにかく登山と分かれば。
ただ、登山の入門特集なので、初心者向けって分かる装備だといいですね。もし初心者感をもっと出せるんだとすると、道に迷ってる感じとかもアリかも知れません。季節は紅葉でお願いします。あとはもう、あなたらしさを前面に出して頂いて、お任せします!
 

===============================



い、いかん…。

案の定、何を頼まれているか分からなくて

混乱するようなオーダーじゃねぇか…。

どうしてこの世界には、

「熱湯でできた凍っていない氷の絵」みたいなものばかり

発注してくるヤツらが平気でのさばってやがるんだ…



[以下の点を確認させてください。]

今風のベルばら、どういう雰囲気をお求めでしょうか?似ている作家がいれば具体名を教えていただけると助かります!また、『ベルサイユのばら』をベースにするのであれば、どういったカスタマイズにより今風にするのでしょう?たとえば目鼻の描き方を近年の漫画家風にする、煌めきを表現したペンタッチを取り入れない、等、どういった面が「今風」であるか確認させていただけると間違いなくラフを構成できると思います!よろしくお願いします。
男性ウケはどの部分から狙っていけばいいでしょう?たとえば、登山シーンとのことなので、画風は女性をターゲットにしつつ男性に人気のスポーツギアを画面内に多く取り入れる方法や、「女子だけ!」という空気を出しすぎないように人物の配置で調整する方法もあります。真ん中だとあざといハーレム状態ですし、最後尾だと所在ないですし、かと言って先頭ですと「男の趣味を教えてやる」みたいな配置だと思ってしまう読者もいるかも知れません。妥当な位置としては、それらを避けつつ、登山を通じて仲良くなった女性とプライベートでも良い発展がありそうな、趣味にも私生活にも期待できる雰囲気になる位置取りがいいかなと思います。もちろん男性読者の多い漫画を意識した作風を取り入れるという直截的な方法もありますが、そうしますと、ご指示いただいている「あくまでも男性ウケもするような、いかにも今風!って感じのベルばら」という雰囲気を維持できるかは、他の部分を確定させてラフを起こしてみないことには、現段階では何とも申し上げられません。
安野モヨコ先生の漫画に出てくるような主人公、職場の同僚で外資系OLまたはファッション編集者とのことですが、オシャレでいいなと思うのですが、登山用の装備をお召しとのことですので、そこまで職業を絞るのは、正直申し上げまして、少々難しいかと存じます…!ですから、髪型と顔立ちである程度調整しつつ、あとは、おしゃれ、尚且つ経済的に余裕のある女性、ファッション誌で言うと具体的には「CLASSY」や「BAILA」や「Oggi」(これらの雑誌には外資系にお勤めの会社員の方も出てきますし、編集さんがたの雰囲気も、仰っているイメージと遠くないのではと思います。)などを想像しておりますがイメージと合っているでしょうか?たとえば、こうした雑誌群の読者層に好かれそうな登山用品ブランドというのは存在するのでしょうか?もしも「特にこれらがステータスも高く、ブランド力もあり、ファッショナブルとされてる」というブランドがあるようでしたらご教示頂きたいです。ただ、「初心者向けの当山装備と分かるように」とのことですが、これに関しては初心者は何が初心者向けの装備か見分けがつかないものですので、絵で説明するのは難しいと思います。むしろ特集中の推奨装備やお得意様の広告主のリリースしている登山装備などが適しているのではないでしょうか。
山のイメージですが、富士山でもチョモランマでも可とのこと、承知いたしました。ただ、初心者感を出す方法として道に迷っているとのことですので、富士山はギリギリ大丈夫かも知れませんが、チョモランマ級になってくると、記名性が低くチョモランマの全景は描写しないとは言え、登山に慣れた読者の方もいらっしゃるでしょうから、そういう方が見た時に、初心者感というより、山をナメて入山した女性グループの遭難にも見えるかなと…。ですから何かランドマーク的なもののある山(高尾山のケーブルカーのような)が理想的かなと思います。同じ号に登場する山で、初心者にも登れて、なおかつランドマークの明確な山(同じ号の他のページに掲載された写真を見た読者が「あ、さっきの山だ」と気付けるような)は、あるでしょうか?もし条件に適う山があれば資料を数点頂きたいのですが…!
他、担当イラストレーターらしさを出してお任せとのこと、ありがとうございます。その人らしさというのは、線を取ったり色を乗せたりする段階で隠しても必ず出ますので、まずは、ご指定とご要望を明確に把握したラフを構成したいと思っております!よろしくお願いいたします!









す…すまなかったな…。

俺がついていながら…あんたを危険な目に遭わせちまった…。


無事か…。


そうか、よかった…。

安心しろ、正直俺は何を頼まれているのかサッパリ分からなかったぜ。

あそこまで細かいオーダーを出しておきながら

「あなたらしさ」

「お任せ」

まで持ってくるとはフルコースだったな…。

はは…。


大丈夫、あんただけじゃないぜ。

俺も散々、言われてきたさ。

死ぬほど編集者の好みで直されたネームに

「中村さんらしさが良く出ています」

とかな。

模写イラストの依頼で

「中村さんらしさを出してください」

とかな。

模写した絵は葛飾北斎の浮世絵だぜ。

俺らしいわけネェだろうが。ハハン…ッ!



ところでだ、

いいか…

この後、あんたは、先様のブレまくる要求に、

「ご迷惑お掛けしました」を言うだろう。

何度も、何度も、リテイクを食らっちまうだろうからな。


なぜなら、先様の発注内容が曖昧だからだ。

正解がまったく見えねぇ。


それなのに、

きっとあんたは、申し訳なく感じるだろう。

早く仕事が終わらないことを。

〆切もギリギリになっちまう。

だからあんたは、きっと謝る。

それは大切なことだ。社会ってのは、そうできてるんだよな。

理不尽でもな。


だがな、覚えておけ、

あんたが本当に悪いとき以外は、

テメェを追い詰めなくていい。

あんたが迷惑を掛けたんじゃねぇ。

相手がよ、ちゃんと注文してねぇんだよ。

それは、あんたのせいじゃねぇんだよ。

あんたのせいじゃねぇから、いいか、

謝っても、思い詰めるんじゃねぇぞ。

ダメなのは、あんたじゃねぇ。

発注内容の意味が分からねぇんだ。




いいか、

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危険!!フリーランスの地雷原・1

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noteは超不人気マンガ家(中村珍)が無職になったとき「自力でweb雑誌みたいなのやって描き続けよう」と思って始めました…が、存外にうまくいき、おかげ様で今は忙しいです。犬と、ゲームと、マンガ描くのが好きです。| https://ching.tv

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