これまでのお話:第1話/収録マガジン(前回まで) (17) 蓮本に素性を知られる不快の理由には「親しくない相手に大事なことを把握されている」というのも、きっとある。それならば、せっかく近付きつつある“好意的な顔見知り”から“友達”に格上げされることを目指すのも一つの道だろうか。 …
これまでのお話:第1話/収録マガジン(前回まで) (16) 「管理人さんシートベルト、しました?大丈夫ですか?」 「あ!は、はいっ!はいっ!帰りは大丈夫です!さっきは、緊張しちゃって、ははは」 「帰り?行きもシートベルトちゃんとしてましたよ?」 「あ、あ、そっか、西関さんは気付いてない…
これまでのお話:第1話/収録マガジン(前回まで) (15) 運転席に乗り込もうとした蓮本は思い出したように身を引き、前を半ドアにしたまま後部座席のドアも開ける。後ろにスーパーの袋を置きながら、 「お荷物、邪魔だったら後ろも自由に使ってくださいね」 と言った。 「ありがとうございます…
これまでのお話:第1話/収録マガジン(前回まで) (14) 駐車券を誰が持っているか忘れているのだろう、精算機の前で立っている蓮本の表情はみるみる翳っていく。 「…管理人さん…私もしかしたら…」 「駐車券ですよね?」 徐に顔を上げた蓮本は隣に立つ東之を振り返って首を縦に振ると、今…
これまでのお話:前回/第1話/収録マガジン (13) 「やめてください、恐れ多くて最後まで何も食べられないまま帰ることになっちゃいます」 溜息の混ざった苦笑を声に絡ませて、東之は答えた。 「それで、西関さんは何も悪くないのに、私きっと本当は、すごく!…すき焼き食べたかったのに、食べら…
これまでのお話:前回/第1話/収録マガジン (12) 汁気の多いカツ丼のためにビニール袋を1枚だけロールから捥いだ蓮本は、軽く苦笑のような溜息をついた。 「このビニール袋も、レジ脇に設置して必要な枚数を売ってくれればいいんじゃないかな。お金を払った利用者へのホスピタリティ的な設置…
これまでのお話:前回/第1話/収録マガジン (11) 蓮本のカゴの中身が食べ物一色になっている様子に東之が気付いたのは、先に並んでいた自分のカゴをレジ係の男性が引き寄せた時だった。 「…あの、殺虫剤…」 「ああっ…!やだ」 話し相手の居る買い出しに夢中で本来の用事をすっかり失念し…
前章:[I]〜[収録マガジン] X 遠い日の悪夢に魘されたのは久し振りだ。 相棒だった山耳犬と大巌猫を人魔に切り裂かれた十二歳の夕べを、思い出す。意識はぼんやりとしているのに、思い浮かぶ景色は鮮明だった。 「シオ、大丈夫?だいぶ魘されていたみたいだけど…。あの子たちが亡くなった日の…
これまでのお話:(第1話)〜(収録マガジン) (10) 「こんな作業服でこんな綺麗な車に乗るの、申し訳ないですね…。車側も想定してないんじゃないですか。…えっこんなダサい格好の人乗せるの?って思って、急にエンストしたりするんじゃないですかね…」 駐車場の中を徐行している時、東之が…
前章:[I]〜[収録マガジン] IX 「ヴァンダレ様、いかがなご様子ですか?落ち着いて眠れそうですか?それとも、何か食べられますか?」 雪棉糸を平織りした大きな浴紗で体を拭いながらターレデが尋ねると、寝間着に袖を通しながらヴァンダレは答えた。少し迷ったようだったが、正直に。 「…穏や…