増刊|コミック無責任&文芸たぶん

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ひとふで小説|9-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[IX]

ひとふで小説|9-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[IX]

前章:[I]〜[収録マガジン] IX 「ヴァンダレ様、いかがなご様子ですか?落ち着いて眠れそうですか?それとも、何か食べられますか?」  雪棉糸を平織りした大きな浴紗で体を拭いながらターレデが尋ねると、寝間着に袖を通しながらヴァンダレは答えた。少し迷ったようだったが、正直に。 「…穏やかでない一日を送ってしまったせいか、きつい眠気が訪れたとき無理に逃がしてしまったせいか、体がなかなか眠たがらないのです。私は、もうしばらく起きていても良いですか?ターレデ様がもうおやすみにな

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ひとふで小説|8-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[VIII]

ひとふで小説|8-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[VIII]

前章:[I]〜[収録マガジン] VIII  相棒たちの遺体が綺麗な骨となったのはちょうど陽の出の頃だった。  優しくゆすり起こすと、半分寝惚けたままのシオはターレデの腰に抱きついて、幼児が口にする喃語のようなものを二、三呟いてから、はっ、としたように飛び起きた。  ヴァンダレが居たことを思い出したのだ。それから、昨日起きた悪夢のようなこともすべて、現実として。  ヴァンダレは、野宿を遂げたシオを労いながら、本当はもう少し短い時間で火の葬いを終えることもできるのだと説明し

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ひとふで小説|7-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[VII]

ひとふで小説|7-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[VII]

前章:[I]〜[収録マガジン] VII  心底、徹底して食を愉しむ主義なのか、或いは、単に口に合う食べ物が嬉しいのか。それとも、せっかく作ったターレデへの持て成しなのか、真意は分からなかったが、ヴァンダレの、どんなに真面目に話していても菓子を咀嚼するまでの間だけは顔が緩むところを、ターレデは既にひどく気に入っていた。  また一つ、ターレデが作った菓子を口にほうったヴァンダレは、小麦酒を含んでから説明を続ける。 「…ところで、剣門を創った者のことを、剣の道では“士祖”と言い

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ひとふで小説|6-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[VI]

ひとふで小説|6-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[VI]

前章:[I]〜[収録マガジン] VI  ふと、サラは改まって礼を述べていないことを思い出し、ヴァンダレに深々と頭を下げ、村長に褒賞を出すよう進言したことを報告した。背後の炎が自分の影をヴァンダレに落としてしまい表情はよく見えなかったが、ヴァンダレは気さくな語り口で謙遜した。 「勝てたから、お礼を言って頂ける立場にあるだけです。負けていたら、皆さんを危ない目に遭わせてしまうところでした。礼には及びませんよ。剣を持つ者がやらねば誰がやるのです、当然のことをしたまでですから…。

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ひとふで小説|5-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[V]

ひとふで小説|5-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[V]

前章:[I]〜[収録マガジン] V  櫓の火が足元を照らしてくれるようになったので、三人は交代で安全な草叢に入り、用を足した。ヴァンダレは平気だったが、シオとターレデは闇夜に慣れず、人魔が現れて間もない村の周りの木立ちも恐ろしく感じられ、尿意を催してもなかなか言い出せずにいたのだ。人が居る、明るい場所では恥ずかしい。しかし、誰も居ない暗がりで済ますには恐ろしい。だから、炎がちょうど足元を照らしに届く程度が、ちょうど良かった。  それから三人は櫓の穴の火が届かない場所の土に

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ひとふで小説|4-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[IV]

ひとふで小説|4-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[IV]

前章:[I]〜[収録マガジン] IV 「ヴァンダレ様は、どうして魔族を斃せるの?」  夕闇の奥で黙々と、無垢な亡骸のための火葬と墓につかう穴を掘りながら、シオは尋ねた。  胸の奥にくすぶる願いとヴァンダレに聞きたいことの本当の意味は「何故あなたは人魔を斃せるか」ではなかったが、シオはまだ己が何を求めて問い掛けたのか自覚的ではなかった。  ターレデは穴掘りを手伝いながら黙って聞いている。  ヴァンダレも片腕と足を使って出来る限りの事をしながら答えた。 「必ず斃せるかは分かり

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ひとふで小説|3-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[III]

ひとふで小説|3-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[III]

前章:[I][II]〜[収録マガジン] III  湯の波打つ音の合間を縫って遠くから人のざわめきが聞こえる気がしたかと思うと、母屋の戸が開く音がする。なんとも不躾な、宿屋の主人だろうか。考える間も無いうちに湯場に繋がる裏口の扉が開くと、勢いよく入ってきたのは従妹のシオだった。 「ターレデ!ターレデ、助けて!」  足を縺れさせながら駆け込んできたシオは一瞬だけヴァンダレの存在に怯んだが、そこから先は目もくれず湯場に浸かっているターレデの腕を自身も湯に濡れながら引いた。血の気

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ひとふで小説|2-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[II]

ひとふで小説|2-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[II]

前章:[I] II  二人が湯浴みする頃には陽がずいぶんと傾き、鮮やかに夕焼けしていた。風のない西の空で橙色に焼けた雲が有終の美をじっと待っている。冷えて澄んだ空気に混じって、近くからは虫の声や鳥の羽ばたき、峰々からはこの山に棲む獣たちの咆哮が聴こえてきた。地面に埋め込むようにして作った小さな湯場の周りには石畳が張られており、隙間の土からは緑の雑草がいくらか生えていたが、もう一息冷え込む頃には黄色く枯れてしまうことだろう。  湯場を囲う石垣の脇には、葦立草を干して編んだ垢

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ひとふで小説|1-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[I]

ひとふで小説|1-イェダラスカレイツァ:バルヴァリデ[I]

I  大巌猫と山耳犬を従えて育った女児が、明らかに「剣を」と決めたのは、相棒を人魔に斃された夕刻。己の剣で初めて触れたのは幾度も幾度も撫でた可愛い可愛い相棒の毛で、初めて斬ったものは可愛い可愛い相棒の皮と肉だった。人魔や魔物の牙や爪は生命を狂わせるはたらきをもっていた。傷口から湧いた魔虫は遺体を蝕み、死者に二度目の命を与える。こんどは、魔族としての。  だから、愛する者を魔物に襲われて亡くした人々は汗と涙にまみれながら亡骸を解体して、早急に焼き払う必要があった。悼む間も無く

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