これまでのお話:初回-I|前回-XI|収録マガジン XII 生まれてこのかた見知った村人ばかりに囲まれて暮らした二人の村娘は、都会を過ごすにはいささか無防備な心を持っている。 「ご、ごめんなさい!」 先に口を開いたのはシオだった。大国の城下町で地べたに寝転ぶ姿を目撃される事がどれほど深…
これまでのお話:[I]〜[収録マガジン] XI 今この瞬間も、人の世の何処かは魔族と攻防している…ということなど、すっかり忘れてしまいそうなくらい賑わった城下町を歩きながらも、擦れ違う者たちが担ぐ物々しい武具が目に入ると、世界が災禍の真っ只中にあることに気づき直す。それでも所々の店…
前章:[I]〜[収録マガジン] X 遠い日の悪夢に魘されたのは久し振りだ。 相棒だった山耳犬と大巌猫を人魔に切り裂かれた十二歳の夕べを、思い出す。意識はぼんやりとしているのに、思い浮かぶ景色は鮮明だった。 「シオ、大丈夫?だいぶ魘されていたみたいだけど…。あの子たちが亡くなった日の…
前章:[I]〜[収録マガジン] IX 「ヴァンダレ様、いかがなご様子ですか?落ち着いて眠れそうですか?それとも、何か食べられますか?」 雪棉糸を平織りした大きな浴紗で体を拭いながらターレデが尋ねると、寝間着に袖を通しながらヴァンダレは答えた。少し迷ったようだったが、正直に。 「…穏や…
前章:[I]〜[収録マガジン] VIII 相棒たちの遺体が綺麗な骨となったのはちょうど陽の出の頃だった。 優しくゆすり起こすと、半分寝惚けたままのシオはターレデの腰に抱きついて、幼児が口にする喃語のようなものを二、三呟いてから、はっ、としたように飛び起きた。 ヴァンダレが居たことを…
前章:[I]〜[収録マガジン] IV 「ヴァンダレ様は、どうして魔族を斃せるの?」 夕闇の奥で黙々と、無垢な亡骸のための火葬と墓につかう穴を掘りながら、シオは尋ねた。 胸の奥にくすぶる願いとヴァンダレに聞きたいことの本当の意味は「何故あなたは人魔を斃せるか」ではなかったが、シオはま…
前章:[I] II 二人が湯浴みする頃には陽がずいぶんと傾き、鮮やかに夕焼けしていた。風のない西の空で橙色に焼けた雲が有終の美をじっと待っている。冷えて澄んだ空気に混じって、近くからは虫の声や鳥の羽ばたき、峰々からはこの山に棲む獣たちの咆哮が聴こえてきた。地面に埋め込むようにして…
I 大巌猫と山耳犬を従えて育った女児が、明らかに「剣を」と決めたのは、相棒を人魔に斃された夕刻。己の剣で初めて触れたのは幾度も幾度も撫でた可愛い可愛い相棒の毛で、初めて斬ったものは可愛い可愛い相棒の皮と肉だった。人魔や魔物の牙や爪は生命を狂わせるはたらきをもっていた。傷口から湧…